かつては大名屋敷などの邸宅街として栄え、今はテレビ局や広告代理店のお膝元として華やかな街として知られる赤坂に、風呂敷包みきなこもちの元祖「赤坂もち」があります。赤坂に店を構えて110余年という和菓子店「赤坂青野」の看板商品である「赤坂もち」に、なんでも最近新しい歴史が刻まれたそうです。
赤坂青野の赤坂本店は、高級感ある石造りのお店。暖簾をくぐると、お菓子が並べられた大きなショーケースが目につきます。そしてその向こうには、加山又造画伯による直筆の「赤坂もち」という額縁が飾られています。
店長の武田真人さんに伺うと「初代がはじめた赤坂もちは、まずもちをとって、きなこをつけて食べるというかたちでした。それを3代目が工夫し、もちときなこを1つの器に入れ、1個ずつ風呂敷包み式にすることで、今のかたちになったのです」とのこと。なんでも、今ではめずらしくない風呂敷包みのもち菓子の元祖だとも言われているのだとか。
くるみと黒糖がおもちに練りこまれているため、黒蜜をかけたりせず、そのまま串でいただける赤坂もちですが、容器に入れたまま食べるのではなく、風呂敷に中身を開けるのが正しい食べ方。ひとくち頬張れば、きなこの風味と、黒糖の優しい甘さが広がり、くるみの香ばしさが噛むほどに伝わってきます。
実はこの赤坂もちは、あのアップルの創業者である故・スティーブ・ジョブズ氏もカリフォルニアまでお取り寄せしていたそうです。「仲介のとある日本人男性から、アメリカのカリフォルニアに詰め合わせを送ってほしいとの注文を受け、相手の名も聞かないまま半年ほど発送を続けていたんです。ですが、最後に注文主がスティーブ・ジョブズさんだったと教えていただいたんです」と武田店長はお話しされていました。
「どのお菓子がお気に入りだったのかは定かではないのですが、詰め合わせの中には赤坂もちも入っていました。どうやって我々のことを知っていただいたのかは分からないのですが、半年間も注文を続けてくださり、とても嬉しく思いました」とのことで、スティーブ・ジョブズは赤坂もちもおそらく食べていたことでしょう。
禅の思想を通し、日本の文化に強い興味を持っていたというスティーブ・ジョブズ。彼のことを思いながら頬張る赤坂もちは、いちだんと深い味に感じられました。
文・照沼健太