お店で食べるもちと言うと、どうしても和菓子屋さんの大福やあんころもちを想像しますが、京都には食事としての「もち料理」を標榜するお店があります。それも伝統がいきづく木屋町や先斗町界隈にあるのだそう。気になるその料理、そしてお店に伺ってみました。

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京都らしい町並みが続く木屋町にある「もち料理 きた村」は、築約100年のお茶屋さんの建物で、おもち料理や会席料理を味わえる料亭です。コース料理と川床席を楽しめる鴨川店、それから一品料理とお酒を手軽に楽しめる木屋町店が隣接しているため、二通りの楽しみ方ができるのも特徴です。

なぜ「もち料理」というユニークなお店を始めたのでしょうか? ご主人の北村保尚さんに伺うと、お店を始めたのは先代であるお母様だったそうです。「母があるとき病気になって意気消沈してしまったんです。そこで周りのみんなが『ずっとやりたがっていた料理屋を始めたらどうか』と薦めたのがきっかけです。もともと父親は戦中の人間だったため、白米やもちに特別な思いがあり、毎朝もちを食べていたんです。それでおもち料理をやったらおもしろいのでは?と始まったんです」とご主人は教えてくれましたが、最初はなかなか上手くいかなかったそうで…。

「やっぱり集まるのは酒飲みなので、みんなつまみばかり食べるんです。かといって、そろそろシメにおもちを…ともならず、みんなで祇園や先斗町に遊びに行ってしまう。そうして、肝心のもち料理がだんだんメニューの片隅に追いやられて行ってしまったんですよ」とご主人は笑います。「でも、私が関わるようになってから、やっぱり「もち料理」という看板を掲げているんだから…と少しずつ看板通り「もち料理 きた村」らしくしていったんです」

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「もちには濃い味のものが合う」と語るご主人に人気メニューを伺うと「たらこ餅です」と一品出してくれました。たらこを卵の黄身にといたタレにおもちを沈めたシンプルな料理。しかしこれがなんとも美味。濃厚でクリーミーなたらこと黄身がやわらかなおもちに絡まって、これまで食べたことのない味です。

なんでもおもちは、お店でついてすぐのもちを蒸し器に入れて、気候に応じてスチームの加減を工夫しながらつきたての状態をキープするのだそう。注文が入り次第そこから出して、使う分だけちぎることで、このふんわりしたおもちを提供できるといいます。

おもち料理以外にも、本格的な京料理が味わえるメニューも用意されているため、色々な楽しみ方ができる「きた村」ですが、幻の人気おもち料理があったそうです。それはなんと「おもちのたこ焼き」だというのですが、いったいどんな料理を想像しますか? 「たこ焼きにおもちを入れるんですか?」と質問すると「そんなのは普通ですよ」と笑われてしまいました。正解は、なんと生地が全部もちでできているのだそう。たこ焼き器にもちを敷き詰め、具を入れ、また半分おもちを入れると、真ん丸なおもちができたと言うのです。

しかしその「おもちのたこ焼き」は今ではメニューから外れてしまったそう。なんでも「おそろしく手間がかかり採算が合わないことが徐々にわかってきた」のだとご主人は笑いながら話してくれました。伝統と冒険の両方を「もち料理」「京懐石」で味わわせてくれる「もち料理 きた村」。ぜひ一度足を運んでみてください。

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文・照沼健太

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