伊勢神宮への参拝客が集まる内宮前にある土産物屋、「勢乃國屋(せのくにや)」。そんな勢乃國屋がつくっている伊勢唯一の草もちが「神代餅(かみよもち)」です。勢乃國屋神代餅本舗の江崎将人さんにお話を伺いました。
伊勢唯一の草もちである「神代餅」を扱う勢乃國屋は、伊勢名物神代餅をはじめ、伊勢志摩の名産品・真珠製品・生姜糖・天照皇大神掛け軸といった、伊勢ならではの土産物を豊富に取り揃える土産物屋。そんな勢乃國屋の江崎さんを尋ねると、2008年にオープンしたというカフェに案内されました。
お店の名前は「茶房太助庵」。勢乃國屋の前身である中村太助商店を始めた、5代目中村太助さんが商品保管用倉庫として使っていた建物を改装したレトロモダンな雰囲気あふれるカフェです。1階は大正時代を、2階は昭和初期のレトロかつハイカラな雰囲気をテーマとし、店内にはジャズが心地よい音量で流れています。
「伊勢では昔から参拝客をおもちでもてなしていたんです。もともと「神代餅」は岡山のきびだんごのような、求肥を使ったおもちだったのですが、戦後に「神様が一番好きなものは、よもぎ」ということで、よもぎもちとして新しく生まれ変わりました」と江崎さん。
「神代餅」を一口いただくと、濃厚なよもぎの香りが鼻を抜けます。もっちりとした食感のおもち、風味豊かなあんこも洗練されていて、なんだか体に良いことをした気分に。もちはお店の奥にある工場で玄米から精米したもち米を杵でつき、天然のよもぎから香りと色をつけているそう。また保存料や着色料などの添加物を一切使っていないそうです。
そうした製法、素材、無添加へのこだわりもあり、「神代餅」は華々しく評価されています。「ほかのおもち屋さんに比べれば歴史の重みみたいなものはありませんが」と江崎さんは謙遜しますが「昭和50年に皇太子殿下(当時)に献上させていただき、第十九回全国菓子大博覧会大臣賞もいただきました」と誇らしげにお話してくれました。
土産物屋という業態は今でこそ当たり前のものですが、5代目中村太助さんの時代にはまだまだベンチャーの分野だったそうです。そんな挑戦をしてきた歴史がある勢乃國屋だからこそ、思い切ったよもぎもちへのリニューアルができ、こだわりの品質で評価を勝ち得たのかもしれません。
文・照沼健太