最近ではめっきり見なくなった、上棟式でのもち撒き。建物の棟(むね)が上がった際に、家が無事に建ったことをお祝いする風習です。

上棟式は、神道の上棟祭に起因しています。中でも、建物の屋上より土地の四方に向かってもちやお金が撒かれる儀式は、「散餅散銭(さんぺいさんせん)の儀」と呼ばれ、土地の神に対するお供えの意味があるそうです。また、厄祓いの意味も含まれており、もちを撒くことにより、厄を祓うことができる(拾った人が厄を持っていってくれる)とも考えられていたようです。

それでは、なぜ儀式にもちを使うのでしょうか? 神社新報社によると、もちの丸い形は、三種の神器のひとつである鏡に見立てられており、鏡餅に代表されるように、神道においては神聖なお供え物とされているそう。

しかし、昔は誰でも家が建てられる時代ではありません。お米マイスターのいるお米専門店「米寅」によると、人々が現代より地域共同体として密接に暮らしていた古い時代、家を建てるということは富みの象徴でもあり、地域の協力無くしてはできない成し得ない特別なことだったとのこと。上棟式でのもち撒きは、散餅散銭の儀とは別に、当時稀少であったもちやお金など、その富を地域の人々に循環させることで、嫉妬による厄災を受けぬよう、地域の共同体の中での生活を円滑にするといった意図もあり、江戸時代くらいから一般に広まるようになったそうです。

古来からもちは私たちの生活に深く根付く、聖なる食べ物。飽食の時代だからこそ、そう思ってもちを食べると、いつもとひと味も違うかもしれません。

文・米田ロコ

取材協力:神社新報社米寅
参考資料:「神道いろは」P106〜107、「神社新報」平成25年5月29日第2555号

ページトップへ戻る